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インク一滴

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酒場放浪



仕事終わりにメールが届く。
「研究会の予定だったけど、ゴールデンな夕暮れすぎてそんな気になれない。」
研究会をサボって、酒場放浪に出るそうだ。
すかさず、便乗することにする。

残務をそそくさと済ませて電車に乗る。
◯◯横町の一角の焼き鳥屋。
彼は既にビールを飲んでいる。
仕事帰りのサラリーマンで溢れる酒場。
いくつかの焼き鳥、焼きそば、ポテトサラダ、
らっきょう、ぬか漬け、卵焼き。
少しずついろんなおかずが運ばれる。

家庭料理風で気取らない味と盛り付けで、美味しい。
子供の頃は苦手だったらっきょう、食べられるようになっていて、我ながら驚く。
らっきょう、茗荷などは大人の味覚なんだなあと思う。
セロリ、パセリ、茗荷、クレソン、うど。。
私の好むこれらのものから、らっきょうもイケるとふんで注文されている。
味覚が合うって、本能的なところが合うような気がするので、結構嬉しい。

ビールがすすむ。
彼は熱燗に移行する。

こみ合った店内のざわめきの中で、
小さなテーブルに向かい合う、ふたりの小さな空間。
他愛ない会話。

お腹もいっぱいで、よい機嫌で店をでて、二人で夜のお散歩。
小路を二人で歩く。
「ここ、昔から好きな中華の店」
「ここ、予備校の時よく来たビリヤード店」
予備校に通っていたことも知らなかった。
いまだに、知らなかったことを知ると嬉しくなってしまう。
ニヤニヤしながら歩いているうちに、地下鉄駅に着き、私はそちらへ、彼は歩いて帰る。
笑いあって手を振って。「おやすみ」「また明日」という思いをこめて。




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