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インク一滴

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春のひかり



その日はよく晴れたうららかな春の日だった。
暖かくなって雪が融けてゆく。
長い間雪に閉ざされる地に暮らす者にとって、春は待ち焦がれた恋人のようにも思える季節だ。

そんな良い季節を迎えて、最後のデートの日がやってきた。

物事には終わりがある。
終わらない関係はない。

けれど、ああそうですか、で済ませることができるほど、自分の感情は簡単ではなかった。
そもそも自分から言いだしたことなのに。

長い長い時間、指を絡めて抱きしめてくれていた。
好きだよ、と言ってくれた。
素直に嬉しかったし私も大好きなのに、言えなかった。
未来のない「好き」は、虚しい気がした。

後になって、未来などなくても好きは好きじゃないかと後悔した。
未来がないことなどわかっていたし、閉じた世界に二人きりで存在する、
その空間に時々いることができたらそれでよかった。

成功不安。
うまくいきそうになると自分で壊してしまう。

どうかしてる。

恋愛の美味しいところだけを味わうキリギリスにバチがあたった。

最後の逢瀬ののちに外へ出ると、春の光が眩しかった。






想い |

言葉と行為。


浴室が肌寒いので、バスローブでくるまれてベッドに連れて行かれた。
いつもは浴室のマットの上に横たえられるのだが。

タオルで丁寧に水滴を拭いてくれる。
子供にするような行為で、彼の愛情深さを感じる。

彼が仰向けに横たわり、私は上から彼の頭を抱く。
頬ずりとキス。
愛おしい気持ちを伝えたいから?
言葉にはできないから?
そうかもしれないけれど、実際にはしたい事をしているだけだ。


行為は言葉にするよりも深く思いが伝わる様な気がする。
バスローブでふんわりとくるんでくれたり、
水滴を丁寧にとってくれたり、
それだけで、私は殆ど泣きそうなのだ。

後ろから、背中に頬ずりして、皮膚の感触を楽しみ、
形状を記憶しようとするように、丸みやくぼみをなんどもなぞる。
それに呼応するように熱くなったり湿潤してきたりする、
皮膚と粘膜の雄弁さを知る。

言葉がなくても私を上にしたり下にしたりできる。
その表情だけで、十分に感じている事がわかる。

言葉が理性の象徴ならば、理性を取り払って
根源的な交わりができたと言えるのかもしれない。










想い |

秋の温度。



秋の空気は、わけもなく寂しい気持にさせる。
何度も繰り返している季節なのに。
この温度と湿度、風のにおいのせいだろうか。

夏草の青いにおい、
秋の乾いた草のにおい。


暑い夏の昼間の汗ばんだ背中、
さらりと乾いた秋口の背中。

季節は変わっても、唇の温度は変わらないことを
背中の皮膚で知る。





想い |

another sky


あの頃は、人生ってこれからだと思っていた。
引っ越した土地で新しい何かが始まると。

何年も経って、折り返し点をとっくに過ぎて、ようやくわかった。
あの頃海沿いの街で見上げていた空と、この内陸の土地の空。
。。。同じ空だったということ。

どこへ行ったところで、別な空なんていうものはない。
それは絶望ではなく、自分にとっては小さな安心だと
ようやくわかった。







想い |

とけあう。



彼は私の皮膚を楽しむように、撫で回したり、頬ずりしたりする。
そうされることで、私も彼の皮膚の感触を楽しむ。
そのうちにひとつにとけあってしまえたらいいのに。
そんな野望を抱きながら、皮膚を求め合う。
自分の全てで彼を感じて受け入れたい。
体も心も裸になって。
想い |
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