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インク一滴

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静謐と熱情。


予定外の仕事が入り、少し残業することになってしまった。
大急ぎで身支度をしてタクシーに飛び乗る。

少し雪の降る中、車は走り、
開演時間の少し前にホールに到着できた。

巨匠と呼ばれるチェリスト。
美しい娘さんがピアノ伴奏。

無伴奏の美しい静謐。
そのあとのピアノが邪魔と感じてしまうほど。
でも、ふたりで目を合わせてカウントを取る様子は微笑ましく、親子の愛情も感じる。
くるくるとウェーブのかかった長い髪をかきあげるのも、共通の仕草だ。

チェロにこぼれ落ちる汗を何度も拭き、
舞台袖に引く度に着替えて登場する。
力強く、余力を残す様な演奏ではなかったと思うのだが、
アンコールには実に5回も応えた。

始まりの一音で心を震わされ、鷲掴みにされてしまった幸せな夜だった。








音楽 |

春近い日に。



敬愛するピアニストであるのに、リサイタルへ出向くのは始めてだった。
チャンスはあった。
4年前、同日同時刻、同じコンサートホールの別なホールで
行なわれたレオンハルトの方を選択した。
2年前企画されていた、2日間連続のショパン。
来日は叶わなかった。

マリア・ジョアオ・ピリス。
クール、知的、繊細。
私が抱く彼女のイメージ。


小柄でショートカットが潔い。
ドレスはフォークロアっぽい。
7分袖のカットソーを重ねていて、ピリスらしいと思った。


シューベルトの最初の一音に、早くも感極まってこみ上げるものがあった。
あとは、空気を震わせる音の粒子に体も心も委ねる。
チェリストが退席し、聞き慣れたブラームスも快かった。

休憩の後、メンデルスゾーンとブラームス。
呼吸をするのももったいない。
この空気感を乱したくない。
咳払いが気になる。。。

少し離れた席に付き添い業務のラブラドールレトリバーがいて、
静かに臥せていた。

アンコール。
バッハが何となく意外だった。
バッハは、自分がとても辛い時期によく聞いていて、
淡々としたリズムが染み入ってきて、また涙がこぼれそうになった。
もうひとつアンコール。
カタルーニャのフォークロア。
美しい旋律。
ホールが割れそうな拍手で包まれる間、ラブラドールがこちらを向いていて、
黒い瞳と見つめ合った。
ピリスを聴く事ができる、特別なラブラドール、
君はなんてラッキーなんでしょうか。

ピリスと同じ時代に生きていられることに感謝し、
まだ雪の残る公園を歩いて帰路につく。









音楽 |

音と官能。


よいコンサートホールで演奏を聞くと、
空気が震えるのを感じる。
例えるなら音の粒子のようなものに包み込まれる様なのだ。
演奏者に近い席だと、彼らの息づかいや呼吸を合わせる目配せなどを
肌で感じる事ができる。

音は目に見えないというのに、皮膚を震わせて、
心の柔らかいところまでしみ込む様に入って来る。
官能的な体験だ。

演奏を終えた瞬間に、演奏者はエクスタシーのようなものを感じているように思う。
官能的とは言っても、こちらはそこまでの快感は得られない。









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