インク一滴

職場近くにあるパン屋。
ベーグルと、スコーンやマフィンなどの焼き菓子を作り、
中年の女性ひとりで切り盛りしている。

ベーグルは定番のものの他に、季節毎に美味しい食材をつかって
工夫されている。
例えば、夏にはとうもろこし。最近南瓜に変わった。
昨冬はユズとチョコレートのコラボがあった。

最近店頭に出る様になったフロランタン。
クッキー部分が分厚く、ざっくりと大きくカットされている。
なによりツボだったのはカラメルの焦し加減。。。
甘さよりも苦みが勝るくらいにしっかりと焦がしてある。
あと数秒火から下ろすタイミングが遅かったら、
単なるお焦げ、というくらい。

ある時、その焦がし加減が絶妙でとても好みだと
彼女に伝えた。
彼女はにやりと笑い、
「ぎりぎり。」
と答えた。


ある日、南瓜の煮物を作った。
少し甘めでおやつのようにしようと思っていたが、
蓋をしていたので油断してしまった。
蓋を開けると鍋底が真っ黒になっていた。。。
あ〜、やってしまった。。。
しょんぼりしながら一切れ南瓜を取り出すと、
底がカラメル状になっていて焦げ茶色の糸をひいた。
食べてみると、あのフロランタンのカラメルの味だった。
私はにやりと笑った。